島だより

~2027年 宮古島のあなたへ

所有権確認請求事件~保良弾薬庫をめぐる土地の裁判

2023年9月8日、那覇地方裁判所平良支部で第一回口頭弁論が行われました。
「所有権確認請求事件」とされるこの裁判は、陸上自衛隊保良訓練場における三棟目の弾薬庫の建設予定地の土地所有権をめぐる裁判です。

裁判の訴えを起こしたのは、「株式会社宮古総合開発」。
現在は弾薬庫が二棟つくられる陸上自衛隊保良訓練場の敷地一帯を、沖縄防衛局に売却してきました。

しかし、その土地の所有名義は、必ずしもすべてが宮古総合開発のものであったわけではありません。
土地の経緯を紐解きながら、今回の裁判について解説したいと思います。

採石場から弾薬庫へ、保良弾薬庫訓練場のいきさつ

保良集落のはずれ南側にひらけたこの土地は、もとは里道があり、集落の人たちの畑がある場所でした。
工事用土砂を採石するため、宮古総合開発が人々から土地を借り、鉱山権を取得して採石を行ってきたのです。

近年には宅地にも畑にも使いようのない土地になっていましたが、そんな折に島にやってきたのが、自衛隊ミサイル部隊の誘致話です。

当初候補地とされていた福山地区が地下水保全の観点から計画撤回され、次いで名前があがったのが島の中央に位置する千代田カントリークラブ(現・宮古島駐屯地)と、宮古総合開発が長年採石してきた保良鉱山(現・保良弾薬庫訓練場)でした。

紆余曲折あって保良鉱山に白羽の矢を立てた防衛省でしたが、この土地は彼らが思うほど条件の良い土地ではありませんでした。なぜならこれらの土地の多くの所有名義は、実際には宮古総合開発ではなく、遡ること100年以上前の所有者のままとなっていたからです。

これらの土地を宮古総合開発のものとして沖縄防衛局に売却するには、明治時代に所有していた人物の相続人をすべて洗い出して、「長年、自分のものという認識で土地を使用してきた事実がある」として裁判所に所有権を主張して訴状を送り、異議申立てがない場合において土地を取得していくという手続きを経なければなりません。

なぜ沖縄防衛局は、このような乱暴な手段を経ることを選択してまで、宮古総合開発が採石を続けてきた土地を、弾薬庫の建設地に選んだのでしょう。

住民の生活圏にあまりに近いため、地域から反対決議があがったこと。近隣生活圏からの保安距離から、保管可能な火薬の量に制限があることなど含めても、決して好条件の土地ではありません。

いずれにしてもこの土地を選んだために沖縄防衛局は、多くの地権者相続人を被告とする、宮古総合開発の裁判の結果を待たざるを得なくなりました。

2019年、地権者相続人を被告として

2019年、この一帯の土地の権利を相続した人たちからの相談を受けて、地域の有志でつくる「ミサイル・弾薬庫配備反対!住民の会」は、費用・手続きを引き受けることによって、裁判に踏み切りました。

当時いくつかの土地の裁判が行われましたが、住民の会で引き受けた三筆の土地は、裁判を通してうち二筆が敗訴、一筆が勝訴となっています。

何が裁判の結果を分けたのでしょうか。簡単に解説すると次のようになります。

宮古総合開発が主張したのは「時効取得」という制度にのっとった所有権です。
時効取得とは、「他人の土地や不動産を、所有する意思を持って平穏かつ公然と一定期間占有した場合に、時効により所有権を得ることができる」と説明されます。

簡単に言うと「自分の土地だと思って長年使用してきた場合、その土地は自分のものにできる」ということです。

時効取得が成立するにはいくつかの要件があります。

  • 自分の土地だと信じてきたこと(所有の意思)
  • 暴力や脅迫などの行為がなくまた土地を使用していることを隠していないこと(平穏かつ公然と占有)
  • 長年その土地を使用してきたこと(一定期間占有)

被告側(地権者相続人)が勝訴となった土地では、宮古総合開発の施業案に「契約地」と書かれていました。
宮古総合開発が、当該土地について、地権者と賃借契約の状態にあることを認識していた証拠のひとつとなり得るということです。

少なくとも客観的にはそう判断されうるものであったことから、判決においては、宮古総合開発の申し立てる時効取得の要件のうち、「自分の土地だと思っていた(所有の意思)」が成り立たず、言い分が認められませんでした。

勝訴した土地は、現在は複数の地権相続人と宮古総合開発の共有地となっています。共有地である以上、宮古総合開発一者のみの意思でただちに沖縄防衛局に売却することはできません。

裁判ののち、宮古総合開発によって買い取りを求める裁判が行われる可能性を考えていましたが、敷地の境界付近のためか、宮古総合開発から動きがないまま、現在に至っています。

2023年、新たな裁判

2019年に、もうひとつの裁判が行われていました。
この裁判には関わっていないので詳細までは分かりませんが、当時の赤旗新聞の記事を参照すると、池間金殿さんという方を被告に、宮古総合開発が時効取得による所有権確認を申し立てたようです。

www.jcp.or.jp

しかし池間金殿さんはすでに死去されており、宮古総合開発が訴訟を行う相手とするのは不適切であったかもしれません。

この土地の裁判の結果は報道されておらず、過去判例でも参照できないため推測ではありますが、池間金殿さんをめぐる裁判で敗訴したため、宮古総合開発は再度時間をかけて土地所有者にかかる相続人を調べあげ、再度、今回の裁判を起こしたものと思われます。

2023年6月、当時入院して病院にいた私のもとへ一本の電話が入りました。宮古総合開発から訴状を受け取っている。インターネットで調べると保良の弾薬庫のことだと分かり、配備問題に詳しい知人に聞いて電話をしているとのことでした。

以前にも住民の会として裁判を引き受けた経緯から、被告とされた相続人の方から要望があれば、費用と手続き等を引き受けると説明をして、承諾をいただき、「ミサイル弾薬庫配備反対!住民の会」として、再度、今回の裁判に関わることとなりました。

裁判の争点とこれから

2019年の裁判では、宮古総合開発の時効取得による所有権確認は認められませんでした。その鍵となったのは、施業案における「契約地」の記載です。

今回の土地も、同様の点が争点となるものと考えられます。前回の判決の結果は参考資料として提出され、通常であれば過去の判例を安易に覆すことはできないはずです。

裁判の行方を多くの人に見守っていただきたいと思います。

今回、宮古総合開発により被告人とされた方は212人です。9月8日に行われた口頭弁論では、住民の会に委任いただいた方を超える数の異議申立人がいたようです。

その話を聞いて、それぞれにどのような思いで異議申立てされたのだろうかと思いを巡らせずにいられませんでした。

訴状を受け取って相談をされた方は、祖父と自分を繋ぐ糸を小さな土地の中に汲んで、祖父のためにも土地を奪われまいと声をあげたいと話されました。

訴状にはこのようにも書かれています。

「訴訟物の価額 金2万4096円」

たった2万4000円の土地です。
しかしここを奪われれば、この土地近隣に住み、暮らしてきた私たちの根っこが奪われてしまうような、大切な土地です。

裁判は数日前に始まったばかりですが、あきらめず抗うことを続けたいと思います。